死神の鎮魂歌(予告SS)

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さくらさんWEB

「背徳の堕天使」に続く続編の予告的なSSです。主人公二人の各視点の冒頭文を抜粋。

※ストーリーのイメージイラストとして、針生采ちゃんに素敵な絵を描いていただきました(っ˘ω˘c )片翼堕天使の二人です。傷だらけの天使と、救けたいのに自らが檻に閉じ込める側に立つ堕天使の、お互いの依存と葛藤を象徴するものすごい壮大な絵をいただき、短編のつもりで書いていたSSが、どうにも完全に本編化してしまいそうなので、とりあえず予告SSとイラスト、という形で公開させてもらうことにしました。

プロットを大幅改定してしまい、正直どこまで進むかはわかりませんが、このストーリーは「背徳の堕天使」後から、「大人編」に繋がる重要な位置の話で、これまでに書いてきた「蒼い月光の夜想曲 短編」や「背徳の堕天使 各番外編」と密接した内容になります٩( ‘ω’ )و

 

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**HIKARU Side

微睡む闇の中で不快な何かに囚われている。

腕に鎖を巻かれたまま、動けない自分を好き放題に弄られるその触感はさも現実かのように全身纏わりつく。

 

母親殺しの淫乱な子どもめ。

お前を死ぬまで愛してやれるのはこの俺しかいない。

お前のその魅力に憑りつかれ惑わされた者は、いずれ破滅の道を辿るのだ……。

だからお前には、もう俺しかいない。

俺以外の者にその魅惑の姿を晒すな。その喘ぎ声を聴かせるな。

お前を愛する者は必ずお前に狂わされ、殺される。

 

 

そう言って自分を詰り続け暴力的な愛で縛り付けた男は、薬物に溺れ、親友に殺されかけて牢獄に行ってしまった。

俺が死ぬまで愛してくれるって言ったくせに。

守ってやるって言ったくせに。

俺のせいで、アンタが破滅したじゃないか。

じゃあ……

やっぱり俺は、誰かの傍に居てはいけない悪魔か、何かか。

 

俺って何?

俺は……今、何のために息をしてるの。

誰かを殺すために存在してるのか……?

身体中がモヤモヤして、熱くて息苦しくて胸が痛い。

この壊れかけの心臓は……

何のために、必死で動いてるの。

何のために、俺の命は未だ生かされているんだ。

 

俺を愛してくれる人は……家族は、いなくなるばかりなのに。

この世界の最期、独りぼっちになって、それでも俺は生きなければいけないのか。

…一体、何のために……?

周りを見渡しても、何もない。

誰もいない。

みんな…どこへ?

 

 

その視界に入る、家族だと思っていた人の姿は全て。

母親の最期を見た時と同じ、血の気のない蒼白い…恐怖の塊に変わり。

それらは、はらりと果て朽ちてゆく。

 

手が届くほどの、目の前で。

 

赤黒い液体が足元一面をじわじわと侵食し、拘束されたままの白い指が、鮮やかに染まっていく。灰色と、赤の世界。

 

 

「……う、あ、あああっ」

咄嗟に自分の叫び声の大きさで目が覚めた。

息苦しくて、その後の声が続かない。

乾いた咳をしながら、背を丸めて布団に転がり、気管支の痛みと胸の苦しみに必死で耐え抜く。

どんな夢を視ていたのか、何があってそうなったのかは忘れてしまったが、最後に視た恐ろしい死者の光景とその世界の色だけが、脳裏に焼き付いて離れない。自分の襟元をきつく握る指先は、恐怖に囚われ震えていた。

 

有楽町の駅前にある、好立地で贅沢な高層マンションの十階。

若い男の子が二人暮らしするには広すぎる最上階の自室で、今西光は悪夢にうなされ、自身の荒れる呼吸にひたすら耐えていた。

静かな真夜中のことだった。

 

 

 

**KATSUYUKI side

 

俺が見つけた、綺麗な白い天使の羽根は、心無い醜悪な人間たちに無残にも引き裂かれ、むしり取られてボロボロの状態だった。それでもなお、ひとひらの羽毛には混じりけない高貴な純白の輝きを誇っている。

煌めくその輝きは、ピアノという道具を使って、清廉で素直な音楽を奏でながら俺の荒んだ心を癒す、魔法のようだった。

天使は自分の肉体が傷ついても、心を抉りとるかのように蔑まれても尚、誰のものにもならないで、ただ閉じ込めれて死を待つだけの闇に一人佇んでいた。

 

そんな囚われの天使が愛しくて、堪らなく欲しくて腕を掴んだ俺に……その総てを疑うこともなく預けきった、従順で素直なその瞳は、俺の何を視ているんだろう。

 

孤独に怯えた唇。

冷えきった指先。

震える身体。

今にも尽き果てそうな、か細い呼吸。

世界から、その存在を否定され、病魔にゆるゆると冒されていくことに酷く怯えながら、必死で毎晩のように依存できる何かを捜す。他人が嫌いで、人付き合いが苦手で、誰とも馴れ合おうとしないくせに、自分を愛してくれる人にはどこまでも懐いて離れない。むしろ愛する人に裏切られ、壊れ離れていくことを誰よりも恐れていて、自己防衛のように最初から人とかかわりをもたないで居ようとしている気がして仕方ない。

その手をとって、愛の言葉を囁いて、優しいキスをするだけで、きっとあの人形のように従順な傷だらけの天使は、簡単に手に入る。けれどそれは、俺じゃなくても。

 

どうすればお前は……俺だけの天使になってくれる?

 

違う、光を支配し傷つけることは自分であっても許さない

 

だけど傍に居たい。傍に居て欲しい。隣でずっと。

 

あの涙を拭い取るのは俺でありたい。

 

その唇に触れるのは俺だけでありたい。

 

俺以外の人間など   ゆ る さ な い

 

誰であろうと

 

自分であろうと

 

 

『かつゆき』

その視界に自分を見つけただけで、花が咲いたように笑うようになった。そんな卑怯なぐらいに幸せそうな表情は、見ていて何よりも嬉しい。いつも悲しそうな顔をしていたあいつから、こんなに綺麗な笑顔がこぼれるなんて、知らなかった。

けれどその表情を見るたびに、いつからかもう一人の俺が暴れ狂うようになった。

 

やめろ。

俺が何よりも護りたいのは、あの笑顔だ。

俺の歌声を聴くたびに、楽しそうに新しい曲を作っては聴かせてくれる。

一人だけでは飛べない片翼の白い天使、俺が護らないで誰が。

 

途端、胸倉を掴むかのように暗闇から伸びるその手が、自分を罵りながら侵食してくるのが分かる。

来るな。

出るな。

お前はただ他人を傷つけて自分の欲望のままにやりたい放題なだけだろう。

お前が来たらあとで尻拭いするのはいつも俺だ。

だから出てくるな。

 

辛抱などできない、善悪の判断もつかない、他人のことなど一切厭わない、自己本能そのままの男が目の前に立つ。自分を見下したような、ひどくバカにしたような目つきで。

ドス黒い闇の煙に呑まれたそれは、かつて大人に強要されて切り捨てた、自分の弱い心と醜い欲望。

そこから発せられる言葉は、本当に……だた醜いだけの言葉なのか。

 

 

 

「誤魔化しと偽りだらけのお前のお守りは御免だ!」

 

嘘吐きなお前は、光に一体何ができるんだ?

護るとか一緒に居るとか音楽がどうとか運命だとかお前の口からは綺麗事ばかり。

甘い言葉で誘惑して、欲しいモノを何でも与えて、自分から逃げられないように束縛して、いっそお前なしには生きられないよう縛り付けているその行為は、俺の欲望と何が違う。

何が違うんだ。

 

それは綺麗なウソで全部コーティングしただけの、俺の欲望。

 

お前が俺を作ったんだろ。

 

やめて

 

いい加減に気付け、いつまでも善人顔をしてあいつの隣りに居座ってるんじゃない。

 

ちがう、ちがう

 

そこをどけ!

 

 

こじ開けられたその扉は、勝行の中で弾けるように割れて砕け散っていく。それはガラスのように脆くもあっさり粉砕され、息苦しいほどの苦い吐き気を肉体に注ぎ込む。

もう誰もいない教室の片隅で倒れ込む勝行の姿を見た者は、幼いころからずっとその姿を護り続けていた、保護者代わりの男だけだった。