SS『みえないヒカリ』 (頂き物絵SS)

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CbOL7J9UEAAMjUe時期:勝行 21歳冬 (入院中) ※大いにネタバレあり注意 (大人編:闇堕ち中の勝行くんです)

 

 

キミがいなければ僕は生きていけない 翔び立つこともできない

息をすることも 前を向くことも 歌を歌うことも 何も

 

どうしてあの時手を離したのだろう どうしてあの時、置いて逝かないでと言えなかったのだろう

無理をおしてまで3時間もライブに夢中になって 飛んで跳ねて、大はしゃぎして

光がそんなに激しい運動ができる状況じゃないことなんて、誰もがみんなわかっていたのに

どうして どうして どうして

 

後悔と自責の念ばかりが勝行の思考を鈍らせ、視界を燻らせ、暗闇の沼に引きずり込んでいく。

ずぶずぶと沈みゆくその感触に息の仕方も忘れ、ただ気持ちの悪い何かを必死にえぐり取ろうと、咳き込みながらその額に爪を立てた。

 

----俺たちは片翼で生まれた、番いの天使。不完全な羽を拡げて、お前に巡り逢うのをずっと待ってたんだ

二人で一つの大きな翼を手に入れて、一緒に音楽やるために

 

そんなことをお互いに言い合って、続けてきた夢も、日常もすべて闇の中に消え去った。

残されたのは、汚い私利私欲と情欲に溺れたまま、片割れの最期すら看取れなかった黒の堕天使ただ一人。両肩に降り積もった汚い塵を、全部血にまみれたその手で薙ぎ払い続け、頬に灰をつけたままの、哀れな仮面の男。

 

あ、あああ ああ  アアアア

声すらも出ない喉元から、何かを吐き出したくてただひたすらうつむき、嘔吐く。

 

こんな薄汚い欲望と絶望に染まった黒い羽なんて要らない。自分で毟り取って、全部引きちぎって、力の限り泣き叫びたい。

必死になって嘔吐いても、その喉からは何もでてこない。

いつまでもいつまでも 綺麗で純真無垢な光がほしくて、欲望の赴くまま独占し続けた罪深いこの手は、自分の要らないものをちぎり取ることも殺すこともできないのだろうか。

ただひたすら嘔吐き音を繰り返し、膝を抱え、頭に爪をぎりぎりと立てたまま、勝行は暗闇の中でずっと声もあげずに泣いていた。

 

泣くな、俺はここにいるよ

お前のこと、置いて行ったりしない

ただちょっと、……視えないだけだ

……ほら、こうやったら、いつもみたいに 一緒に  傍で コーヒー飲んで 曲作って チョコ食って

 

あ、……おれ、もう食えないな……

 

甘いの、代わりに食ってやれないけど…… でも傍にいるよ

なあ、勝行

 

きづいて 気づいて  おれの声に気づいて

俺はずっと お前のそばにいるって、約束

 

お前に視えなくなっても 身体がなくなっても ちゃんと守ってるよ

お前が俺の魂とか、心がほしいって言ってたの  覚えてるか

俺は覚えてるし、お前にあげるよ 全部あげる

だから……  泣かないで……俺に気づいて…… 元気出せ

お前が泣いたら 俺も泣きたくなる  ……移し鏡みたいだって 前お前、言ったよな……

 

勝行 かつゆき

あの日の、最後のアンコール お前の歌  ちゃんと聴けなかったから……

もう一度聴けるまで 俺はずっと、ここで待ってる

お前が笑って歌ってくれたら おれも わらえる

 

背を丸め、泣きながら嘔吐き続ける勝行を覆うように、大きな白い羽根が、幻想のようになびく北風が吹いた。

 

ふわり、空から舞い降りる雪の結晶が、ぼんやりと灯をつける。いくつもの雪が、勝行の身体をまるでこれ以上冷やさないように、傷つかないようにと、優しく包み込んでいく。冷たい、つめたい雪の結晶なのに、なぜか勝行の身体は誰かにそっと抱きしめられているかのように、ほんのりと温かみを帯びていく。

空はやがて闇が覆い尽くし、深海の青緑のような木々が粉雪に包まれて灰色に揺らめいた。

無音の世界にひらひらと、塵に紛れて天使のヒカリが零れ落ちていく。

 

 

「……勝行さん、これ以上は冷えますよ。お部屋に戻りましょう……聞こえていないと思いますが、風邪をひかれては困りますから、無理やり連れていきます」

病院の中庭で、いつまでも膝を抱えて座り込む勝行の様子を見に来た世話役の片岡が、近づきそっとその腕をとった。

冷たく冷え切ったはずのその躰は、片岡が思っていたよりは温かかった。

 

うつろな瞳のまま、動かず何も話さない、何も聞こえない勝行の頬には、涙の筋を誰かにふき取ってもらったかのような跡が残っていた。

 

END

 

2016.4.12 BGM キミはともだち/平井堅 イラスト/まるこさん(@MRKMaRaS


 

大人編「孤独なオアシス」を読み切った人にはわかるシーンですが、そうでない人には「えっ…」ってなること請け合いなSSですみません。

この曲にこの絵。いただいた絵を見た瞬間、とにかく誰の何の声も聞こえなくなった完全闇堕ち中の勝行くんと、笑えなくなった勝行くんのそばで、何もできずずっとずっとその回復を願い続ける光くんだ……(*ノωノ)と思って、キミはともだちを聴きながら泣きながら書いたSSです。

「キミが泣いてた 僕も泣きそうになった だけどこらえて笑った 元気出せよと笑った

君が寂しい時は いつだってとんでくよ うまく言葉が見つからないけれど 僕の声が君の心を癒すなら ただ相槌をうつだけでもいいかい」

この2番のフレーズが、まさに、光くんの心情そのままなんで…未だ聴くたびに泣きます。辛い(*ノωノ)

声がとどかなくても、姿が視えなくても、ここにいるよって、ずっと手を広げて寂しがり屋の勝行くんのそばにいる光くんはほんとに天使。